IoTとエッジコンピューティングが及ぼすネットワークへの影響
これまでネットワークとAIの関係性から、AIがネットワークセキュリティに及ぼす影響と変化について解説してきましたが、今回は、ネットワークとAIの別の関わり方として、IoTやエッジコンピューティングという技術と、それらがネットワークに及ぼす影響について紹介します。
目次
IoTの概要
IoT (Internet of Things) は、「モノのインターネット」と訳されます。IoTは、製造現場やオフィスなどに設置した多数のセンサー機器から得られるデータを集約、分析して活用する取り組みです。
IoTのポイントは、センサーで計測するデータと、データを送受信するネットワークです。センサーは、温度や湿度、振動など、さまざまな情報をデジタルデータに変換します。そして、そのデータはネットワークを通じて送受信されます。
正確なデータを収集し、また分析結果に応じて機器を制御するためには、安定したネットワークが不可欠です。
増加するIoTトラフィック
IoT機器が増加するほど、ネットワークトラフィックも増加します。特にIoTではリアルタイム性が重視されるため、機器ごとに高頻度で通信が発生します。
さらに、カメラによる映像などを通信する場合は、大きなデータがネットワークを流れることになります。また、単純なオンオフの1bit信号であっても、HTTPを用いて通信する場合、HTTPパケットは一定以上小さくなりません。これは、HTTPパケットがヘッダ情報などを含むためです。そのため、IoTを導入することで、社内ネットワークに負荷がかかってしまうトラブル事例もあります。
高度化するIoTデバイス
注目され始めた当初のIoTは、電子部品そのものに近い、温度だけ、振動だけを検出するようなセンサー機器+ネットワークという構成でした。しかし、コンピューターが小型化、高性能化したことで、IoT機器も進化しています。現在のIoT機器は、CPU、メモリー、ストレージが搭載され、LinuxなどのOSが作動する一種の小型PCと言えます。
その代表例として、Raspberry Piなどの小型PCがあります。Raspberry Piは、手のひらサイズのボードにCPUやメモリーを搭載し、Linux OSを動かすことができます。また、さまざまなセンサーを装着することができ、標準でWi-Fi機能も搭載されていることから、電子回路などの専門知識がなくともIoT機器を容易に開発することができます。
デバイスの高度化によるセキュリティリスクの高まり
上述のように、IoT機器がコンピューター化、高性能化したことで、OSやアプリの脆弱性、通信の盗聴や改ざんなどのリスクも顕在化してきました。IoT機器のOSやアプリにセキュリティホールが存在する場合、そこが攻撃の糸口となることがあります。また、IoT機器と集計、分析するITシステムとの間の通信が暗号化されていない場合、第三者にデータを盗聴されたり、改ざんされたりするリスクがあります。
また、IoTは現場部門での「野良」的な取り組みであることも多く、IT部門のセキュリティ対策が及ばないケースもあります。これらのリスクを避けるためには、IT部門と現場部門が連携し、企業全体でのセキュリティ対策を進めることが重要です。
機械学習モデルのコンパクト化とエッジコンピューティング
IoT機器からのデータを集約し、分析する際には、機械学習アルゴリズムが用いられることが多いです。そして、機械学習アルゴリズムの研究が進み、高度なモデルをより小さな計算資源で実行できるようになりました。例えば、画像認識や異常検知などのモデルが、Raspberry Piなどの小型PCで動作するようになっています。
従来は、IoT機器から生のデータをすべてシステムに送信し、システム側で機械学習を実行していました。そのため、大量のデータがネットワークを圧迫することがありましたが、近年では、IoT機器とシステムの間に「エッジサーバ」と呼ばれるコンピュータを設置し、製造ラインごと、オフィスのフロアごと、といった一定の単位で複数のIoT機器からのデータを集約し、機械学習などの処理を行ってからシステムに送信する、という構成も増えています。
このような構成は、IoTシステム全体の「端」に近いところで処理を行う、ということでエッジコンピューティングと呼ばれています。また、「AIカメラ」と呼ばれるような機器では、機器自身にコンパクトな機械学習モデルを搭載し、撮影したデータをその場で処理し、結果だけを送信することができるものもあります。
これにより、IoT機器からは処理後の小さなデータのみが送信されることになり、トラフィックが大幅に削減され、ネットワークの負荷軽減とリアルタイム性の向上が実現しています。
IoT活用のためのネットワーク制御
IoTにおいてエッジコンピューティングが広がると、ネットワークに接続されたコンピューターが増えることになるため、上述のようにやはりセキュリティリスクも高まり、セキュリティ対策のためにネットワークの負荷が高まることもあります。例えば、脆弱性に対応するOSのアップデートやアプリのパッチ配信などを大量のIoT機器に一斉に配信するために、突発的にネットワークトラフィックが急増する可能性があります。
また、機械学習モデルの更新もネットワーク経由で行われるため、モデルのサイズや更新のタイミングによっては、同じネットワークを使用しての通常業務に影響が生じる恐れもあります。
そのため、IoT (エッジコンピューティング) を導入する場合は、すべての機器を網羅し、適切にネットワーク制御を行う必要があります。通常時の通信だけでなく、機器の故障による通信エラーの検知と対処もネットワーク運用業務の対象となります。
まとめ
この記事では、ネットワーク技術とAI (人工知能) がどのような関係にあるのか、ということを紹介しました。ここまで紹介してきたように、AI、IoTの活用が広がることは世の中の流れとして必然です。そのため、ネットワーク技術者もAIやIoTに関する最新動向をキャッチアップし、組織として適切に対処できる仕組みを構築していく必要があります。他にも、Junipediaではみなさんの情報収集に役立つさまざまなコンテンツを発信しています。ぜひ、参考にしてください。